オリジナルサイドストーリー CLOSE
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〈2〉

 バス、トイレつき、キッチン共同。築何十年かは誰も知らない。
 アルバたちが住んでいるのは、要するに、そういう古めかしいアパートだった。
 1階の半分はガレージ、もう半分がエントランスホール。2階から上が居住スペースになっていて、2階と3階、5階と6階にスタジオタイプの部屋が3つずつ、4階にはパーティールームを兼ねた共同キッチンと管理人室がある。
 アルバは、そのアパートの5階のひと部屋を借りて住んでいる。隣がソワレの部屋で、もうひとつ向こうはノエルの部屋だ。
 今となってはフェイトたちがどうやって手に入れたのかは謎だが、よそのギャングのように羽振りがよくない〈サンズ・オブ・フェイト〉の、唯一といっていい財産がこのアパートだった。生前のフェイトは、ここが自分たちの家だといっていた。
 そして、今もここは彼らの家であり続けている。もちろん、すべてのメンバーがここに住んでいるわけではないが、何かあった時にみんなが集まるはいつもここだった。
 ソワレの部屋をあとにしたアルバは、階段を降りて4階に向かった。
「よう」
 共同キッチンのテーブルの前にいたギャラガーが、アルバに気づいてグロールシュの瓶をかかげた。テーブルの上には、すっかり冷めきったピザと空き瓶が数本置かれている。
 火の気のまったくないコンロを一瞥し、アルバは唇を吊り上げた。
「ずいぶんとわびしいディナーだな」
「いうなよ。俺だってこんなもんですませたくないっての」
 ギャラガーはうんざりしたように嘆息した。自分では料理のできないギャラガーも、ふだんはアンに食事の用意をしてもらっている口だ。
 声をひそめ、ギャラガーは管理人室のほうを見やった。
「……何かあったのか、アンのヤツ? 中にいるのは確かなんだが、いくら呼んでも出てきてくれねえんだよ、さっきっから」
「何かあったのは確からしい。私も詳しいことは知らないが」
 アンはほかの部屋よりも広い管理人室に住んでいる。
 もともと管理人室にはシャーリィとアンが親子水入らずで暮らしていたのだが、シャーリィの死後はアンがひとりで住んでいる。実際、今ではアンがこのマンションの管理人のような存在だった。
 アルバは管理人室のドアの前に立ち、ノックしようと右手を上げて、しかし、すぐに手を降ろした。ドア越しに、少女がすすり泣く声がかすかに聞こえたからだった。
 きびすを返したアルバは、冷蔵庫の中からよく冷えたシュナップスを取り出し、ギャラガーにいった。
「……今夜はそっとしておいてやろう」
「そりゃいいが——いったいどういうことなんだ?」
「あの子もいつまでも子供じゃあない。いろいろと難しい年頃なんだよ。……おそらく」
 アルバはシュナップスをひと口あおってソワレの部屋へと引き返していった。
 喉を通って胃の底へと落ちていったアルコールが熱に変わり、冷たくなったアルバの身体を内側からあたため始めていた。

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